2025年11月28日
「岩手県高等学校・特別支援学校教職員の働き方に関する白書」について
1. なぜ、いま「働き方」を問うのか
教育現場で何が起きているか、ご存じですか?
岩手県高等学校教職員組合は、2024年度に全県規模の勤務実態調査を実施し、高校1,304件、特別支援学校690件の回答と、部活動アンケート1,421件をもとに、「岩手県高等学校・特別支援学校教職員の働き方に関する白書」をまとめました。
そこから見えてきたのは、
- 長時間労働の常態化
- 休日が取れない構造
- 制度と実態の深刻な乖離
といった、個人の努力では解決できない構造的な問題でした。
これは、教職員だけの問題ではありません。
子どもたちの学びを支える教育の持続可能性、そして私たちの社会全体に関わる課題です。
2. データで見る現状
◆ 長時間勤務が日常化している
- 高校教職員の41.2%が平日2時間以上の時間外勤務
- 22.5%が3時間以上の時間外勤務
- しかし「勤務時間を100%正確に記録できている」のはわずか33.9%
勤務時間の過少申告が、産業医面談を避けるために誘発されている実態も明らかになりました。
■月勤務時間外平均

■繁忙月勤務時間と勤務時間記録の正確性(平日)

■繁忙月勤務時間と正確に記録しない理由

◆ 部活動は事実上「全員担当」
- 顧問担当率は97.96%、複数兼任も9.27%
- 高校教職員の51.94%が「非常に負担」「かなり負担」と回答
- 30代では「非常に負担」が27.80%
- 土日2日とも休める教職員は28.7%のみ。20代では土日に休めない層が40%超
- 5月に休日がまったくなかった教職員は高校で5.4%
労働基準法が定める「週1回の休日」すら確保されていない状況が常態化しています。
■部活負担感

■年代と週の休日

◆ 休息が取れない
- 特別支援学校では「休憩10分未満」の回答が増加
- 表面的には時間外勤務が削減されたように見えても、実際には十分な休憩を取れない状態が常態化
◆ 背景にあるのは制度の矛盾
これらの問題は、個人の努力不足ではありません。
給特法により時間外勤務命令が「超勤4項目」に限定されているにもかかわらず、部活動指導や校務分掌など、本来は任意のはずの業務が事実上の義務として扱われているという制度と実態の深刻な乖離が根本にあります。
3. このままでは何が起きるのか
教職員への影響
- 心身の健康悪化
- 家庭生活の犠牲
- 早期離職・教職志望者の減少
子どもたちへの影響
- 教職員の多忙化により、支援を必要とする生徒への対応が後手に回る可能性
- 不登校生徒数は増加傾向
- 一人ひとりに丁寧に向き合う時間の不足
社会への影響
- 私生活を犠牲にして働く姿、ジェンダー不平等を容認する構造が、子どもたちへの「隠れた教育課程(ヒドゥン・カリキュラム)」として作用
- 次世代に「自己犠牲を当然とする労働観」を再生産
「子どもたちが見ているのは、私たち大人の働き方」です。
4. どうすれば変えられるのか
白書では、以下の方向性を提案しています。
✓ 部活動顧問の希望制導入
教職員の意思を尊重した希望制を基本とし、地域移行を推進
✓ 業務量の見える化と適正配分
業務総量を可視化し、超過勤務を必要としない配分を実現
✓ 業務の標準化と引継ぎ体制の整備
学校ごとに異なる書類様式や手順を県単位で統一し、引継ぎ時間を確保
✓ 勤怠管理の透明化
労働時間の改ざんを示唆するような不適切な運用を是正し、実態に基づく管理を実現
✓ 労働時間削減と業務量削減の一体化
時間短縮だけでなく、業務そのものの削減を求める
そして、これは学校だけでは実現できません。
行政、地域、保護者、そしてすべての市民の理解と協力が必要です。
5. 皆さまにお願いしたいこと
以下のどれか一つでも、あなたの関わりが改革の力になります。
□ 理解を示す
- 教職員が休息を取ることへの理解
- 「先生は休んではいけない」という固定観念を見直す
□ 協力する
- 部活動の地域移行への協力
- 学校行事の精選への理解
□ 尊重する
- 授業準備や教材研究の時間を尊重する
- 放課後や休日の連絡を控える配慮
□ 広める
- この白書をSNS等でシェアする
- 周囲との対話のきっかけにする
□ 声を上げる
- 意見や体験談を投稿する
- 改善につながる情報を提供する
「学校は社会の写し鏡」です。
教育を守るのは、教育現場だけではありません。
6. 白書・調査データを読む
この白書は、現場の教職員約2,000件の声をもとに作成されました。
何が起きているのか、なぜ起きているのか、どう変えるべきか。
データと分析、そして現場の声を通じて、教育現場の実態を包括的にまとめています。
関心のあるテーマから、ぜひご覧ください。
[「岩手県高等学校・特別支援学校教職員の働き方に関する白書」を読む(PDF)]
[データを読む① 2024年 休暇・勤務時間・労安等調査(PDF)](現在準備中)
[データを読む② 2024年 部活アンケート(PDF)](現在準備中)
※現在準備中のデータについては、高教組組合員は完全版を組合員ページで閲覧可能です。
7.動画で概要を知る
「読む時間がない」「どこから読めばいいかわからない」という方のために、白書の核心を約26分で解説した動画を用意しました。
※本動画は、Google NotebookLMに白書を読み込ませて生成した音声解説を使用しています。
8. あなたの声を聞かせてください
この問題について、あなたの考えや体験を教えてください。
保護者、地域住民、元教職員、生徒・卒業生…どなたでも歓迎します。
簡単な入力フォームを用意しています。
- 意見やアイデア
- 体験談(匿名可)
- 改善につながる情報提供
→ いただいた声は、必要に応じて議会・行政等への提言に活用させていただきます。
(メールアドレス等は収集しておりません)
7. よくある質問
Q. 部活動がなくなると、生徒の活動機会が失われるのでは?
A. 地域移行は「廃止」ではなく、学校と地域が協働して担う公共の文化的営みへの転換です。生徒の活動機会を守りつつ、持続可能な仕組みを作ることが目的です。
Q. 教員が楽をしたいだけでは?
A. 現在の長時間労働は、教職員の健康、家庭生活、そして教育の質すべてに悪影響を与えています。持続可能な働き方は、子どもたちのためでもあります。
Q. 私には何ができる?
A. まず、この現状を知ること。そして、周囲と対話すること。小さな理解の積み重ねが、社会を変える力になります。
教育の未来は、対話から始まります。
この白書が、現場と社会をつなぐ架け橋となることを願っています。